週刊『彰と朝陽』 ■しおりを挿む
何とかしてやる─彰
さっき食らった朝陽さんの会心の一撃……超効いた。
ホント、容赦ないな。
ま、そんなとこがかわいーんだけど。
まだ痛む腹をさすりつつ車を進めると、渋滞に遭遇してしまった。
「シカがすげーな!」
前の車が、シカの大群に囲まれて立ち往生してるんだ。
それを見た朝陽さんは、嬉しそーにケータイで写真を撮り始めた。
俺はというと、このゾーンが混んでる理由がわかってスッキリしたとこ。
これは強行突破なんかできないから、しかたねぇよな。
「オレたちも囲まれるかな?」
「たぶん……。どーしよ」
「彰がどーにかしろ。賢者になってから、まだ一回も活躍してねーじゃねーか」
「あぁ、そーいやそーだね」
「四月までに手柄立てねーと、降格だぞ」
「え、なにそれ」
「また遊び人に戻る」
「うそっ」
「戻ったら、またレベル1からだし、厳しーよな……」
「そんなの困る!」
「なら、がんばれよ」
今さら遊び人レベル1なんて、勇者朝陽さんの足手まといにしかならねーじゃんか!
と、とりあえず魔法!
「デイン系を石に当ててビビらせるのはどーかな!」
「バカかお前は。デイン系は勇者の専売特許だろーが」
「そ、そーだった!」
ゲームあんましねぇから忘れてた……。
てか、賢者の攻撃魔法でフェイントになるのって、なにがあったっけ!
火は燃えるし、氷は凍るし。
竜巻も爆発も危なすぎる。
……あ、時間止めんのなかったっけ!?
って、ゲームが違うか。
「やべぇ。わかんねーよ朝陽さん……」
「彰はしかたねーな!」
「うぅ」
あっさり白旗を掲げた俺に、朝陽さんが大きな溜め息を吐く。
「ま、レベルの低い賢者は、遊び人と変わらねーか」
「……がんばってレベル上げします」
「ん。オレが強いからまだいーけど、回復ぐれーはできるよーにならねーとな」
「朝陽さんを癒すのは得意だよ!」
「そか、精進しろよ。究極の癒し魔法を会得するまでな」
「朝陽さんのために、満身創痍となってもやり遂げ……あっ、動いた」
イチャイチャしてる間に、前の車が漸くシカの群れを抜け出した。
一応見てたけど、ひたすら徐行で抜けるしかなさそーだ。
すげぇ億劫……。
「うわー集まってきたよ、朝陽さん」
「よし。オレがなんとかしてやる」
「え」
「任せろ!」
そー言って笑った朝陽さんは、やたらかっこよかった。
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