週刊『彰と朝陽』 ■しおりを挿む
決定的瞬間─彰
「すげー!」
サファリに入って最初のゲートを抜けた瞬間、朝陽さんが歓声を上げる。
まずは肉食ゾーン。
視界に飛び込んできたライオンの寝姿は圧巻だ。
「見ろ、彰! 手がでけーぞ!」
「ホントだ。猫みたいな手だけど、太さがすごいね」
「ん。あれにじゃれられたら大変だな」
「本人はじゃれるつもりでも、殴るになっちゃうね」
「うかつに遊べねーな」
「朝陽さんは近付いちゃダメだよ」
「オレは大丈夫だ。こいつら、オレにビビって集団で狸寝入りしてやがるし」
「さすが、朝陽さんは勇者なだけあるね」
「当たり前だ! 降参の証に、肉球まで見せてるんだからな」
朝陽さんの言う通り、セルフ腕枕をしてるライオンの手が上向きになってる。
その肉球は猫と違って、触ったら硬そーだ。
色も濃いし。
俺は車の窓に張り付く朝陽さんを見ながら、ゆっくりと車を進めてく。
すると、朝陽さんが小さく声を上げた。
「あっ」
「? どーしたの、朝陽さん」
「彰、あいつ……」
「向こうの立ってる雄ライオン?」
「そーだ。へっぴり腰で、なにやってるんだ?」
「……なんか恥ずかしそー?」
前足を懸命に突っ張って、後ろ足でもじもじと足踏み。
その動きは、ホントに獰猛なライオンなのかってぐらい、可愛く見える。
「他のライオンも、気になるみてーだ」
「すげぇ注目されてるね」
座る場所ってか、尻が落ち着く場所でも探してるのかな。
と思った時、事件が起こった。
ボトッていう音がここまで聞こえてきそーなぐらい、大きな塊が草の上に落ちたんだ。
「!」
「うわぁ……」
それは、いわゆる“フン”というやつ。
まさかサファリパークで、雄ライオンの脱糞シーンを目撃してしまうなんて……。
「決定的瞬間だったな! すげー!」
朝陽さんがキラキラした笑顔で喜んでる。
……あんまり気持ちのいーシーンじゃなかったけど、朝陽さんが嬉しーならいっか。
俺は朝陽さんに頷いてやりながら、アクセルに乗せた足に軽く力を込めた。
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