週刊『彰と朝陽』 ■しおりを挿む
奇跡─朝陽
くつくつと鍋で煮えてるのは、“オレ特製バレンタインカレー”だ。
ダチが貸してくれたハートの型で抜いたニンジンが、いー具合に柔らかくなってて美味そー。
ちなみに、じゃがいももハート形に抜いて、チンした後サッと素揚げして置いてある。
それから型抜きした後の余白。ニンジンはすりおろし、じゃがいもはみじん切りでカレーに煮溶かしてみた。
なかなかがんばってるだろ?
このカレー食ったら、彰は確実に鼻血出すな。
「ん、美味ぇ」
軽く味見して、火を止めたらじゃがいも投入。
よっし、これで完成だ!
オレは米が炊けてるのを確認して、冷蔵庫からチョコを出した。
仕上げにココアパウダーをまぶして、ホワイトチョコをぶっ刺すんだ。
あ、ホワイトチョコはなくても構わねーぞ。
オレがたまたま、葉っぱの形のホワイトチョコを見掛けたから買ってきただけだ。
正規の七個にはもちろん、味見用のにも仕上げを施す。
容器に入ってるから、振り掛けるだけで済んで楽だった。
しかも、店で高く売ってそーな見た目だし。
仕上がりに満足したとこで、まず魔王の分を包む。
それからチョコを冷蔵庫に戻して、味見用を食ってみることにした。
初めてだしレシピ弄ったし、一応な。
オレは軽く緊張しながら、生チョコをスプーンで口に運んだ。
「……すげー!」
ちゃんと固まってるのにスプーンで掬える柔らかさだったし、口の中に入れたら一瞬で溶ける。
それにやっぱり、美味ぇ!
奇跡の大成功だ!
彰の奴、早く帰ってこねーかな?
早く食いてーんだけど。
……と思ったら、ちょうど玄関ドアが開いた気配がした。
慌てて使ったものを洗って、彰を迎える。
「おかえりっ」
でも、リビングのドアを開けたのは彰じゃなかった。
「ただいま。おっ、朝陽可愛いな! それはエプロンか?」
「……なんだ魔王か」
「あからさまにがっかりされたら傷付くなぁ」
「彰より先に来た魔王が悪いんだろ」
「でも、朝陽にチョコ持ってきたって言ったらどうする?」
「!」
「ゴディバだぞー」
「マジか!」
「朝陽がくれるからお返し。友チョコだ」
「オレ、魔王のこと誤解してたみてーだ!」
「朝陽は素直だな。ほら」
「ん」
魔王がポケットから、やたら高そーな包みを出す。
それを受け取ると、やっと彰の足音が聞こえてきた。
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