週刊『彰と朝陽』 ■しおりを挿む
いらないからあげる─彰
「おう、遅かったな。待ってたんだぞ」
「………………」
今日は待ちに待ったバレンタインデー。
俺はソワソワしながらなんとか仕事をこなして、上がりの時間になった瞬間にロッカールームへ急いでソッコーで裏口を潜った。
なのに、よりによってこんな時に!
やたら高そーな黒いロングコートを着た怪しい男が、俺の目の前に立ちはだかった。
しかも馴れ馴れしく『待ってたんだぞ』とか言いやがる……。
そういう場所でもないのに俺みたいな男がターゲットになるなんて、世の中ホントに物騒になったな。
朝陽さんが危ない目に遭わないよーに、俺が一層しっかり守ってかないと。
決意を新たにした俺は、一歩後ろに下がって、大回りで不審者を避けた。
「……って、おい待てよ! 今日は明らかに俺だろ!」
せっかく避けたのに、黒いロングコートの不審者、もとい大翔が前に回り込んできた。
「うぜぇ」
「ひどいな彰は。クリスマスにも同じことしたし……」
「うるせぇ。今日は急いでんだ」
「そんなに大量のチョコ持ってか? モテモテだな」
「いらないから大翔にやるわ」
「俺もいらねぇよ」
「てかなにしに来たんだお前」
「朝陽にバレンタインチョコ渡しに行くついでに、可愛い弟を拾ってやろうと思って。すぐ帰るから安心しろ」
「ふーん。で、なんで朝陽さんにチョコなんだよ」
「友チョコだ」
なんだよ友チョコって。
女かよ……。
てか空気読めよバカ大翔が。
常識的に考えて、今日はカップルのための日だろ。
チョコは明日以降にしろよ。
でも、朝陽さんは俺がチョコのことを知ってるって気付いてないから、下手に口実に使ったら自爆する。
大翔は図々しいから、俺が言っても朝陽さんに許可取ろーとするからな。
……だからって、邪魔されんのを黙って容認するのは嫌だ。
とは言え、どーしようもないんだけど。
あぁもうムカつく……!
だいたい、邪険にされたくなかったら、なんもない日に来いってんだ。
「乗ってくだろ?」
大翔は俺の苛立ちに気付かねぇで、趣味の悪い派手な外車に俺を促してくる。
ちくしょー。
ムカつくから、腹いせに今度なんか奢らせるか。
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