週刊『彰と朝陽』 ■しおりを挿む
歳の数だけ─朝陽
恵方巻は黙って食わねーとならねーらしー。
でもそれはつまんねーから、彰と話し合って方角だけ守ることにした。
ダイニングテーブルを北北西っぽい方角に向けて、隣同士で並んで海鮮恵方巻にかぶり付く。
太くて口に入らねーから、斜めかぶりだ。
「ん、んむ。んまいな」
「うん。いろんな魚が入ってるしね」
七種類の具が入ってるおかげで、味に飽きることもなさそーだ。
さっきから、かぶる度に魚が違うし。
「ロールカツも、まるかぶりなんだな」
「食ってみる?」
「ん」
「じゃあ口開けて」
「あ……」
「美味しー?」
「梅干しが入ってるぞ!」
「あはは。シソと梅肉だね」
「美味ぇ!」
「よかった」
彰は嬉しそーに笑いながら、オレが食った残りを口に入れた。
「美味いだろ?」
「うん。これなら俺でも作れそー」
「マジか!」
「また食べたい?」
「ん」
「じゃあ作ってあげる」
食っただけで作れるよーになるなんて、彰はすげーよな。
てか、作ってあげるといえばオレのチョコだ。
まだどれを作るかは決めてねーけど、今日行ったスーパーで材料が揃いそーなのは確認してきた。
確か当日は昼から彰がバイトだから、行ったらすぐにスーパーへ買い物に行けばいー。
そしたら、材料も彰が知らねーうちに調達できるし、完全にサプライズになる!
いきなり手作りのチョコを渡された彰は、感動のあまり泣くだろ?
これで、ますますオレに惚れやがるんだ。
彰もオレも嬉しーなんて完璧だな!
オレは機嫌よく、残りの海鮮恵方巻を平らげて吸い物を飲み干した。
すると、いきなり彰が間抜けな声を上げた。
「あ」
「んっ?」
「豆買うの忘れた」
「なんだと!」
節分といえば豆なのに、彰はなにしてやがんだ。
別に食わなくても死なねーけど、なんかやらねーと気が済まねー。
「どーしよ、朝陽さん……。今から買ってこよーかな」
「めんどーだろ」
「でも、豆は食わないと」
「ま、わかるけどな」
「ちょっとスーパー行ってくる」
「待て」
「?」
「豆は明日でもいーだろ。今日は代わりに、歳の数だけキスしてやる」
「え」
「今年一年、幸せで過ごせるご利益付きだ。無病息災よりすげーんだぞ」
「あ、朝陽さん……」
我ながら画期的なアイディアだ。
オレは椅子から立ち上がって、顔を真っ赤にしながら驚く彰の唇を塞いでやった。
バレンタインは今の比じゃねーぐらい喜ばせてやるから、覚悟しろ。
-END-
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