週刊『彰と朝陽』 ■しおりを挿む
噂で聞いた話─彰
朝陽さんがバレンタインコーナーを熱心に見てた理由。
実は、俺には思い当たる点が一つだけある。
噂で聞いたっていうか、橋田からのメールで知ったんだけど……。
どーやら、朝陽さんが俺にバレンタインチョコを作ってくれるみたいなんだ。
と言うのも、橋田が学内のカフェで、理工の女二人と朝陽さんが話してるのを聞いたらしくて。
朝陽さんはそいつらとバレンタインの相談話をして、その後はにかみながら“彼氏”の話をし始めたとか。
俺の名前は出てなかったけど、確実にノロケ話だったとかなんとか……。
別に橋田を疑ってるわけじゃないけど、俺としては半信半疑だった。
だって、朝陽さんが俺の名前を伏せてるとはいえ、ダチにノロケ話をするなんて!
でも、スーパーで真剣にバレンタインコーナーに見入ってた朝陽さんを考えると、正確な情報なのかもって思えてきた。
よし。ここは真偽を確かめるために、軽くカマをかけてみよーかな。
俺は吸い物を作りながら、こたつで雑誌を広げて“ソフトさきいか”を食べる朝陽さんに声を掛けてみた。
「朝陽さーん」
すると、慌てた様子で雑誌を閉じた朝陽さんが、何故か赤い顔で睨んできた。
「な、なんだいきなりっ」
「ホントに、今日はチョコ買わなくてよかったの?」
「……今は、いらねーんだ」
「そう? 朝陽さんはチョコが好きでしょ」
「ん。でも一通り食ったしな」
「バレンタインコーナーには、意外に珍しーチョコがあるよ。明日も一緒に行」
「うっ、うるせー! チョコはいーから、彰は早くご飯の用意しろ!」
「……うん。わかった」
話せるのはここまでか。
やっぱり、なんか隠してるっぽい。
でも朝陽さんが閉じた雑誌は明らかに女のファッション誌だったし、表紙に『手作りチョコレシピ』って文字があった。
朝陽さんが女の服に用があるわけがないから……。
単純に考えれば、橋田の聞いた話が事実に限りなく近いってことだ。
……やべ。鼻血出そー!
俺は吸い物にはんぺんとしめじを放り込みながら、込み上げる鼻の痛みをひたすら堪えた。
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