週刊『彰と朝陽』 ■しおりを挿む
背伸びしても届かない─朝陽
夜、バイトから帰ってきたら、玄関の天井にある電球が切れかけてた。
もちろん、ただのオレが背伸びをして届く高さなわけがねー。
しかたねーから椅子を持ってくることにして、オレはダイニングに行った。
キッチンで料理中の彰は、後ろ姿が完全に主夫だ。
「彰」
「おかえり、朝陽さん」
「ん。今夜のご飯はなんだ?」
「かき揚げ丼だよ」
「うまそーだな!」
「最初から衣に味が付いてるから、おいしーと思う」
「早く食いてーな」
「もーすぐできるからね」
「そか。てか新しー電球あったよな、玄関の」
「下駄箱の中にあるよ、LED」
「オレが替えてやる」
「え」
「椅子持ってくぞ」
「ま、待って朝陽さん! 危ないから俺がやる!」
「大丈夫だ。彰はかき揚げに集中しろ」
なにが危ないんだ。
椅子に乗って電球替えるぐらい、オレにも簡単にできる。
オレは油から離れられねー彰が喚いてるのを無視して、椅子を玄関に運び込んだ。
下駄箱の中から出した電球の箱をすぐ取れる場所に置いて、椅子の上に乗る。
あとは外してつけるだけだろ。
廊下の電気があるから真っ暗なわけじゃねーし、楽勝だ。
「っと、かてーなコレ」
やることは簡単なんだけど、電球が回らねー。
どれだけ硬くしてあんだ?
電球だから、むやみに力入れて握れねーし、すげーやりにくい。
右手だけに神経を集中させて、回す方に力を込める。
でもある時、いきなり電球が回ったせいで力が行き場所をなくして、身体のバランスが崩れた。
「っ……あ」
「朝陽さん!」
向こうから彰の声が聞こえたけど、バランスを崩したオレには振り返る余裕がなかった。
オレは咄嗟に、ドアの上にある桟に左手の指を引っ掛ける。
幸い、椅子が揺れたわけじゃなかったからなんとか……。
と思ったら、すげー音が響いた。
「……ん?」
「う……。あ、朝陽さん」
「彰!? どーしたんだ!」
オレはなんとか体勢を整えられたから落ちずに済んだけど、何故か彰が足元で踞ってた。
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