週刊『彰と朝陽』 ■しおりを挿む
もうしない─彰
近所迷惑?
知るかよ、俺は急いでんだ。
インターホンを連打すること数十回。
やっとドアが開いて、迷惑そーな顔の男が姿を現した。
「うるせーな。一回でわかるっつの」
「朝陽さんを返せ! 誘拐魔が」
「は? 誘拐なんてしてねーよ。朝陽が「連れてって」って俺に付いてきたんだ」
「朝陽さんが……?」
「とりあえず中入れば? 寒い」
信じられない……いや、信じたくない。
朝陽さんが自分の意思でこいつのアパートに来たなんて。
俺は少し震える脚をなんとか動かして、半年振りにタツヤの部屋……その一番奥の寝室に入った。
半年前とまったく変わらない室内。
隅にあるベッドの上で、目元の赤い朝陽さんが静かに眠ってた。
しかもベッドの脇には朝陽さんのジーンズが脱ぎ捨てられている。
俺は慌てて朝陽さんの元へ足を進めた。
「っ、あさ」
「おい。せっかく寝てんだから起こすな」
「チッ……。てか、何した? 朝陽さんに何したんだてめぇ!」
俺はタツヤの胸ぐらを掴んで、壁に力一杯押し付けた。
怒りでどーにかなりそーだ。
「飯食わせて話聞いてやっただけ」
「それだけなわけねぇだろ!」
「……キスした」
聞いた瞬間目の前が真っ赤になって、気付いたらタツヤを殴ってた。
衝撃で尻餅をついたタツヤは、ゆっくりと立ち上がるけどやり返してはこない。
「で? 脱いでる理由はなんだ!」
「抱きたくて脱がしたけど、抱いてねーよ……」
「は? 信じられるとでも思うか? ふざけんじゃねぇよ!」
「疑うなら後で朝陽の身体を確認すればいいだろ! いいから落ち着けよめんどくせー」
タツヤはすげー力で俺をリビングに引っ張ってソファに突き飛ばすと、コップに水を汲んで手渡してきた。
「……ったく、そんだけ必死なのに、なんで浮気するんだ? 泣かすんなら俺に返せ」
「渡さねぇし、浮気もしてねぇよ」
俺はコップの水を飲みながら、昨日のことを全部話した。
今思えば下らない話だ。
朝陽さんは素直になれない性格だってわかってるのに。
「ふーん。くっだらね!」
「なんだと?」
「バカップルの痴話喧嘩じゃねーか。あーもーうぜぇな! 早く朝陽連れて帰れよ。家でやれ」
「は?」
意味がわかんね。
でもそれに異論はないから、俺は朝陽さんにジーンズを履かせて、起こさないように背負った。
愛しい匂いと体温に、二日酔いの辛さがすっと癒される。
あぁ……やっぱり朝陽さんがいないとダメだ。
「おい須磨」
「なんだ」
「今度泣かせたらマジで返してもらうからな。朝陽がどれだけ嫌がってもだ」
「……もう泣かせたりしない」
真剣な顔のタツヤに真剣に返して、俺はアパートを出た。
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