週刊『彰と朝陽』 ■しおりを挿む
泣いているのを押さえつけて─朝陽
半年振りに来たタツヤのアパートは、あんまり変わってなかったけど生活感があった。
なんでも、オレと別れてから大切さに気付いたとかで、テキトーに女とヤるのは止めて真面目に暮らしてるらしー。
ちゃんと学校行って、毎日アパートに帰って自炊生活してるそーだ。
なんか信じられねーけど、作ってくれたチャーハンはやたら美味かった。
少なくとも、自炊生活やってるってのはマジみてーだ。
「美味かった?」
「ん。腹いっぱいだ! サンキュ」
「真面目に暮らしてんの、わかっただろ?」
「そーだな。タツヤ、前は料理できなかったもんな」
「朝陽が好きだからがんばってんだ。いい男になって、須磨から奪い返してやるために」
「そか」
「で、ナニがあった?」
タツヤがやけに優しー顔で、オレの髪を撫でてくる。
オレは、ゆっくりと昨日のことを全部話した。
素直に気持ちを言わなかったせいで喧嘩になったことから、電話に出た女のこと、朝になっても彰が帰ってこなかったことまで。
話してるうちにまた涙が出てきたけど、タツヤはなにも言わなかった。
ただ、泣いてるオレをソファに押し倒してきた。
オレの身体をキツく押さえ付けて、キスしてきたんだ。
付き合ってる時はしてくれなかった、気持ちを込めたキスだった。
「朝陽。俺は本気だぜ」
「………………」
「お前が泣きながら須磨のコト話してんの、聞いてられねー。俺のとこに戻ってこい」
「でも、オレ……っ」
「今はそれでいい。須磨を忘れたいって気持ちだけでいい。俺が忘れさせてやるから」
「もー、タツヤのこと……好きじゃない、のに?」
「また惚れさせてやる。今度は絶対、大切にするから……」
タツヤの顔がまた近付いてくる。
オレの涙を丁寧に舐めた舌で、唇をノックするみてーに舐めてきた。
催促されるままに隙間を作ると早速、それが入ってくる。
オレの涙のせいで、しょっぱい味だ。
「んんっ……」
タツヤの……彰とは全然違う舌が、オレの舌に絡まる。
絡まり方も吸い方も、耳の奥に響く音も……全部違う。
彰との違いを見付ける度、オレの眦からこめかみに向けて、涙が零れていく。
オレはタツヤが紡ぐキスの水音の向こうで、自分のベルトが外される音を聞いた。
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