週刊『彰と朝陽』 ■しおりを挿む
ハロウィンの仮装─朝陽
オレの目の前で停まった車の中には、黒いスーツにマントを羽織った変態が乗ってた。
思わず駅に向かって走りそーになったけど、追い掛けられたら余計に恥をかくから、数分前の自分を恨みながら乗ることを選んだ。
「かそー?」
走り出した車内で、魔王は意味のわからねーことを提案してきた。
「うん、ハロウィンの仮装。変身して彰を驚かさない?」
「どんな格好だ?」
「魔女なんてどう? 魔女ッ娘朝陽……イイッ!」
「きめぇ」
「ひどい……。でもツンツン朝陽も可愛いよな」
「魔王って素は彰にそっくりだな。初めて会った時は、変態なりに医者っぽい雰囲気だったのに」
「変態って……。あのエッチな質問は朝陽にしかしてないから」
「そか」
ま、そりゃそーだよな。
最後にセックスした日なんか訊き回ってたら、セクハラで訴えられて裁判所に入り浸ってるだろーしな。
「で、魔女になる?」
「その前に、なんでオレが女の仮装なんだ」
「俺が見たいから」
「………………」
「それに、彰が見たら驚くと思うけど。楽しそうじゃない?」
「でも……」
「俺の知り合いが本格メイクしてくれるから完璧。他人から見られないように送り届けるし」
「本格的なのか。他人に見られねーなら、やってもいーかも……」
「よし決まり」
なんかうまく乗せられてる気がしなくもねーんだけど。
でも魔女って、黒のロングワンピースにとんがり帽子と鷲鼻の婆さんだろ?
女の格好でも婆さんならいーかなって思えるし、本格メイクで仮装なんてしたことねーから、ちょっとやってみてーんだよな。
それに、彰の反応がおもしろそーだから楽しめると思うんだ。
「あのサロンで仮装するから」
「ん」
よし、彰を驚かせてやる!
オレはビビった彰の顔を想像しながら、婆さんの嗄(しわが)れた声を出すイメトレを始めた。
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