TRUST

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大型犬とオレ(side 朝陽)

□初めて拒んだ日


「なっ、やめろ!」

「なに、朝陽は俺よりこいつの心配するわけ」

「比べることじゃねーだろ!」

「来いよ、抱いてやる」

「意味わかんね」

「お前なんか色気あるし、ムラムラした」


 タツヤがオレの腰を抱いた。


「やめろ!朝陽さんは今日、貧血で…」


 彰が立って、オレの腕を引いた。

 足元が覚束ないオレはフラフラと彰に抱き留められる。


「関係ない。朝陽は俺が抱きたい時にその気になる身体だからなっ」


 タツヤがまた彰を殴る。

 彰、やり返せんだろ。なんでやらねーんだよ。

 タツヤがくずおれた彰の胸ぐら掴んで立ち上がらせる。


「やめろ!タツヤ、やめてくれ」


 タツヤが手を放すと、彰はその場にへたりこんだ。


「じゃあ来いよ朝陽。セックスしよう」


 タツヤがオレの手を引いたけど、オレは動かずに首を横に振った。


「行かない。今日はセックスしない」

「なに、朝陽もしかしてこいつに惚れたわけ」

「そんなんじゃねー。でも、今日は無理。ごめん」


 タツヤがオレの手を離した。


「なんか萎えた。じゃあまたな、朝陽。愛してる」

「ん…じゃーな」


 オレも愛してるって言えなかった。喉になんか詰まったみたいに言葉になんなかった。

 タツヤはオレの頬にキスをすると、女放置してどっか行った。

 タツヤがいなくなってから、オレは彰の前にしゃがみこんだ。


「バカ、なんでやり返さねーの」

「朝陽さん…」


 彰は弱々しく笑って、頬が痛んだのか顔を歪めた。


「なんで、あんなこと言ったんだ」

「…朝陽さん、たまにすごく寂しそうな顔してる時があって。
 俺、朝陽さんにはいつも笑っててほしくて…、あの人見掛けた時無意識に呼び止めてた。
 浮気やめて朝陽さんの傍にずっといられないなら別れてくれって、言ってた」


 だからって黙って殴られるのはおかしいだろ。

 オレに惚れてるわけじゃないくせになんでそこまですんだよ。


「朝陽さん、泣かないで」


 彰がそう言ってオレの頬を撫でた。


「朝陽さんに泣かれたら、俺困る」

「困れよ…っ、お前なんかずっと困ってればいーと思う」

「もう、朝陽さんの言うことなら聞く」

「マジ? じゃあこれからおぶってくれる?」

「あ、そうだった。朝陽さん貧血平気? 帰ろ」


 お前のほうが大丈夫じゃないくせに何言ってんだ。

 アホすぎて涙止まった。


「よかった、朝陽さん笑った。帰ろ帰ろ」


 そう言って笑った彰は、また頬の痛みに顔を歪めた。



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