週刊『彰と朝陽』 ■しおりを挿む
誰にも見せない顔─彰
「このエレベーターすげー速いな。な、彰。彰?」
「あ……うん。そーだね」
「おい。脂汗かいてるじゃねーか」
「そ、そーかな」
「重症だな」
俺は そりゃ、足元が一部シースルーなんて生きた心地しねーよ!
誰だ!こんなくだらない事を考えた奴は。
パンフ見たら、展望台の床も一部シースルーとか書いてあったし。
パリッと割れたらどうするつもりなんだ。
「大丈夫か…?」
「あ、朝陽さん…」
「手、繋いでてやろーか?」
「いーの?」
「そんなに怖がってんの、放置できねーよ」
「ありがと。超幸せ」
「ん」
「高所恐怖症でよかったかも」
「なんでだ」
「朝陽さんと堂々と手が繋げるし」
「バカか。怖いもんは少ねー方がいいだろ」
「そーだけどさ」
「オレが強いからフォローできるけどな」
「朝陽さんは勇者だからね」
「おう。早く遊び人から出世しろよ」
「え、俺まだ遊び人なわけ?」
「困るんだよな。いつまでも遊ばれてっと」
「ごめん…」
エレベーターが止まって、俺は朝陽さんに手を繋がれたまま展望フロアに出た。
まぁまぁ人がいるけど、朝陽さんは気にせず俺の手を握ってる。
「せめて回復できてほしーとこだな」
「やくそうじゃ間に合わない?」
「当たり前だろ。魔王と戦うんだぞ」
「ですよね」
「じゃあここ、一人で歩いてみろ」
「え」
床の一部がガラスになってる…。
下を見たら、マジでヤバい。
「彰は男の子だからがんばれるだろ? オレはこっちで待ってるから」
「あっ…」
「がんばれ」
朝陽さんがガラスを渡った先で待ってる。
な、なんでこうなったんだろ?
とりあえず注目される前に済ませたい。
俺は朝陽さんを見据えて、震える一歩を踏み出した。
◆ ◆ ◆
「彰は今から賢者に転職だ」
「え、マジで?」
「ん。がんばったからな」
「これで朝陽さんを守れる!」
「これに甘んじてねーで精進しろよ」
「がんばります!」
「怖がる彰を見たのは、初めてだ」
「情けないとこ見られたな」
「オレは嬉しかった」
「なんで?」
「たぶん誰にも見せねー顔だろ」
「まぁ…。そーだね」
「なんか優越感だ」
そう言う朝陽さんの今の優しい笑顔こそが俺にとって優越感だ。
これからも朝陽さんが誰にも見せない、いろんな顔を見てたい。
とりあえず近いうちに朝陽さんをデコレーションして、恥ずかしがる顔を拝ませてもらおう。
-END-
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