雪見温泉 ■しおりを挿む
「ですが後程、足を捻ってはいないかチェックをして差し上げますね」
僕、普通に歩いているんだけどな。
過保護すぎるアルは、自分で確かめないと気が済まないんだろう。
それがわかっているから、僕は突っぱねることはせずにおとなしく従うことにした。
「うん、わかった」
「もうじき車が来ますからね」
僕の返事に満足したアルが、優しく頭を撫でてきた。
そのままアルに寄り掛かって暫くぼんやりしていると、一台の車が静かに目の前に停まった。
リムジンバスじゃなくて、黒塗りの高そうな車だ。
「これ……?」
「そうですね。では正太郎、きちんと私に掴まっていてくださいね」
「ひゃっ! アル!?」
アルは中から出てきた運転手さんに荷物を渡して、いきなり僕を姫抱きにした。
そしてそのまま座り心地が良さそうなシートに僕を膝に乗せて座ってしまう。
いくらここが旅行先でも、人前で姫抱きは恥ずかしいよ!
でもアルは僕の足をチェックするんだ、と言って解放してくれそうにない。
僕もチェックを受けるって返事をしたから、それ以上の抵抗はできなかった。
◆ ◆ ◆
旅館までは車で山を登らないと行けないらしい。
だからその間に捻挫がないかをチェックするんだって。
それはわかったけど、姫抱きで車に乗せたのはやりすぎだと思う。
「……うん、痛くないよ」
くるくると左右に足首を回されて、痛いどころか逆に気持ちいいぐらいだ。
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