雪見温泉 ■しおりを挿む
僕は後でアルに見せてあげるために、ゆっくり丁寧に足跡を付けて回った。
そしてもうすぐアルが来そうだから道路に戻ろうと、大きく足を踏み出したその時。
「あ……っ」
普通のスニーカーなのに、調子に乗って軽くジャンプしたのが悪かったらしい。
ダメだと思った時にはもう遅く、ズルッと足が前に滑る。
何故かこういう時って、全部がスローモーションになるんだよね。
だからって、転ばないための対処なんかできないんだけれど。
僕は下半身に来るだろう衝撃に備えて、目をきつく閉じることしかできなかった。
「Watch it!」
「!?」
衝撃は下半身じゃなくて腕に来た。
きつく掴まれた二の腕が痛い。
でも掴まれる直前に聞こえた声がアルだったから、僕はホッと身体の力を抜いた。
アルが咄嗟に出る言葉は、やっぱり英語なんだ……。
「正太郎……!」
「……あ、アル、…………っ」
いきなり抱きすくめられて、背骨が僅かに軋む。
少し苦しいけど、それだけ心配してくれたんだと伝わってきて幸せな気持ちになる。
でもアルにはここが外だという意識がしっかりあるのか、すぐに解放されてしまった。
もっと抱き締めていてほしかったんだけど、僕も我慢しないと。
「間に合ってよかった。どこか痛いところはありませんか?」
「大丈夫、どこも痛くないよ。心配かけてごめんね……」
本当は掴まれた二の腕が結構痛い。
でも転んでいたら、最悪脚の骨が折れていたかもしれないし。
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