雪見温泉

しおりを挿む



 僕は後でアルに見せてあげるために、ゆっくり丁寧に足跡を付けて回った。

 そしてもうすぐアルが来そうだから道路に戻ろうと、大きく足を踏み出したその時。


「あ……っ」


 普通のスニーカーなのに、調子に乗って軽くジャンプしたのが悪かったらしい。

 ダメだと思った時にはもう遅く、ズルッと足が前に滑る。

 何故かこういう時って、全部がスローモーションになるんだよね。

 だからって、転ばないための対処なんかできないんだけれど。

 僕は下半身に来るだろう衝撃に備えて、目をきつく閉じることしかできなかった。


「Watch it!」

「!?」


 衝撃は下半身じゃなくて腕に来た。

 きつく掴まれた二の腕が痛い。

 でも掴まれる直前に聞こえた声がアルだったから、僕はホッと身体の力を抜いた。

 アルが咄嗟に出る言葉は、やっぱり英語なんだ……。


「正太郎……!」

「……あ、アル、…………っ」


 いきなり抱きすくめられて、背骨が僅かに軋む。

 少し苦しいけど、それだけ心配してくれたんだと伝わってきて幸せな気持ちになる。

 でもアルにはここが外だという意識がしっかりあるのか、すぐに解放されてしまった。

 もっと抱き締めていてほしかったんだけど、僕も我慢しないと。


「間に合ってよかった。どこか痛いところはありませんか?」

「大丈夫、どこも痛くないよ。心配かけてごめんね……」


 本当は掴まれた二の腕が結構痛い。

 でも転んでいたら、最悪脚の骨が折れていたかもしれないし。




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