雪見温泉 ■しおりを挿む
駅弁を食べ終わって片付けたら、あとは景色を楽しむだけ。
僕は周りからは見えない場所でアルと手を繋いで、自然が多くなってきた窓の外を眺めていた。
でも絶妙な振動と満腹感、それに早起きの影響で目蓋が重くなってくる。
「正太郎? 眠いのですか?」
「んん……だいじょ、ぶ」
「少し眠ってください。海が見えたら起こして差し上げますから」
アルの大きな手に頭を引き寄せられて、ちょうどいい高さにある肩に乗せられた。
微睡む意識に、大好きな人の匂いと体温はすごく心地よくて……。
僕はアルの温もりを求めて無意識に身体を擦り寄せながら、睡魔に意識を預けた。
◆ ◆ ◆
トンネルを抜けたら、一面真っ白な銀世界だった。
特急を降りてからローカル線に揺られて、およそ30分。
僕たちは、とある温泉街にやって来た。
「アル! すごく寒いっ!」
「正太郎、走ってはいけませんよ」
「わかってるー! だから早く来て!」
アルが旅館に送迎車の手配をするって言うから、僕は駅を出たところで雪を踏みしめて遊ぶことにした。
だってこんなに積もったところなんて、田舎に行った時にしか見られないし。
でもこの前の年末はアルに会えなくて寂しかったし、年が明けたらアルに会えるから早く帰りたかったしで、雪で遊ぶ気にならなかったんだ。
とにかく雪に触るのが久し振りでテンションが上がってしまう。
サクサクと真っ白なところに綺麗な足跡を残しながら歩く。
そうすると、何故か支配欲が満たされるんだよね。
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