雪見温泉 ■しおりを挿む
窓の外はまだ家だらけで、山や海が見えているってわけじゃない。
それでも見たことのない街並みってだけで、僕の旅行気分はさらに高まってくる。
そうなると気になるのが、さっき買ってきたお弁当。
本当はもう少し自然が見えてきてからがいいんだろうけど、僕のお腹が待ってくれそうにない。
駅弁を買うからって、張り切ってなにも食べないで来たのが悪かったかな。
でも、さっそく食べようか! なんて恥ずかしくて言えないから、アルがお腹すいてないか訊いてみよう。
「アル……」
「お腹がすいたのですね?」
「な、なんでわかったの!?」
「正太郎の可愛らしい瞳が訴えています」
目は口ほどにものを言うってやつ!?
…………恥ずかしい!
そんな指摘をされるんなら、素直にお弁当を食べようって言えばよかった。
アルは予想が当たって嬉しいのか、いそいそと袋から駅弁を取り出している。
「では正太郎、お食事に致しましょう」
「うん……ありがとう」
僕はアルから二つのお弁当を受け取った。
カツと卵が入ったパン……と、いろんなおにぎりのお弁当。
だってどっちかに決められなくて、電車に乗り遅れそうだったんだ!
アルのお弁当は一つだから、分け合って食べればきっと大丈夫。
「列車の中というだけでワクワクしますね」
「でしょ! 何故か味も良くなるんだよ」
「楽しみです。それでは、いただきます」
一緒にパチン、といい音を立てて割り箸を割る。
だんだん自然が多くなっていく窓の外を見ながら、僕たちは買ってきたものを二人で美味しくたいらげた。
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