雪見温泉 ■しおりを挿む
車より電車がいいって言ってみてよかったな。
アルが一生懸命経路を探してくれたらしくて、なんだか悪い気もしたんだけど。
でも牧野さんによると、すごく楽しそうに検討を重ねていたらしい。
牧野さんにお願いすれば簡単なのに……僕のためにがんばってくれたんだ。
こうやって温泉旅行で誕生日をお祝いしてくれるだけで、身に余るほどなのに。
「アル……」
「どうしたのですか?」
「ありがとう。温泉……すごく嬉しい」
僕はアルの服の袖を掴んで、優しい笑顔を見上げた。
本当は手を握りたいんだけど、周りには他の乗客がいるし、アルは目立つから我慢。
「喜んでいただけて安心しました。行き先を勝手に決めてしまったので、本当は不安だったのです」
「僕はアルと一緒なら、どこでも嬉しいよ」
アルは結構自信家なのに、僕のこととなったら簡単に不安になってしまう。
もっと自信を持ってほしいと思うけれど、そんなところも大好き。
手の位置を少しずらして、他の人からは見えにくいようにアルの小指に触れてみた。
すると、長細い小指がゆびきりをするように僕の短い小指に絡んだ。
少しでも触れ合えるのが嬉しくて、ちょっとニヤけてしまう。
「正太郎はずるいです」
「えっ、どうして?」
アルはにっこり笑うと、僕の耳に唇を寄せてきた。
「あまりにも正太郎が愛らしいので、キスをしたくなってしまいました」
「────!!」
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