大人のチョコレート ■しおりを挿む
「ふぅ…」
「待っていたんだ、牧野!」
「な、なんなんです!?」
正太郎と琳を送り届けて帰ってきた陽平は、エレベーターの扉の前で待っていた私にひどく驚いたようだった。
◆ ◆ ◆
「経路検索、で検索してください」
「け、い、ろ、検索…」
ノートパソコンをリビングで起動し、陽平の指示に従って検索。
なるほど、こういう便利なページが存在するのだな…。
「私に命令してくだされば、わかりやすく纏めて差し上げますよ?」
「ダメだ。正太郎の誕生日を祝う旅行だからな。私が自分の力で調べて、正太郎をエスコートする」
「…わかりました、お手伝い致します」
陽平はいかにも命令された方が楽だという顔をしているが、これは譲れない。
正太郎が列車で行きたいと、あの可愛らしい口で嬉しそうに言ったのだ。
自らの力で愛しい恋人の願いすら叶えられない男など、存在する価値はない。
「ところで、正太郎様のご両親との会食は如何でしたか?」
出発地と目的地の入力を終えたところで、陽平が一番聞いて欲しい話題を振ってきた。
「そのことなんだが!」
「はい?」
「お義母様は気付いていらっしゃった…」
「まさか、正太郎様との関係を…ですか?」
「そうだ。気持ちを試された」
あの時の無言の圧力は凄まじかった。
お義母様は私の目を見つめて、私に正太郎を幸せにできる器があるかどうかを見極めておられたのだ。
もちろん私にはその自信があるから、その視線にまっすぐ応えたのだが。
「合格なさいましたか?」
「当然だ。温泉旅行の件も嘘偽りなく話して、お許しをいただいてきたのだからな」
「正太郎様のお誕生日のお祝いに二人きりで行く、と…ですか!?」
「ああ。快く許可してくださった」
「はぁ…さすがですね」
陽平は深い溜め息を吐いて感心している。
それより、様々なパターンが出てきたのだがどれで行くのが一番良いのだろうか。
だが今の陽平は私に感心するのに忙しくて、頼りになりそうにない。
私はしかたなく、すべてをメモして各鉄道会社を調べることにした。
駅構内の施設から列車のシートに至るまで、徹底的に調べてより良いルートを見極めるのだ。
さぁ、正太郎といい想い出を作るために尽力しようか。
-END-
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