大人のチョコレート ■しおりを挿む
「それなら、電車がいいな」
「電車…ですか?」
「…ダメ?」
「いいえ。では、車は極力使わずに行きましょう」
「うん!」
もし時間がかかる場所なら、アルと駅弁を食べたいな。
車だと絶対にできないことだから、アルも駅弁を楽しんでくれるはず。
「すっごく楽しみ!どこに行くの?」
「行き先は当日のお楽しみですよ」
「やっぱりアルは意地悪っ」
でも嬉しいから、僕はアルにキスをしてから強く抱き付いた。
今、すごく甘えたい気分なんだ。
アルの胸元に顔を擦り付けるようにしていたら、僕の背中を撫でていたアルがクスクスと笑いだした。
「正太郎は甘えん坊ですね」
「だって…嬉しいんだもん」
「とても愛らしくて、離したくなくなりますね。私以外には甘えてはいけませんよ?」
「甘えないよ!アルだけ…」
僕は別に甘えん坊じゃないし。
こんなに甘えたくなるのはアルだけ。
昔から、母さんにもあんまり甘えない子供だったんだから。
あ…母さんには旅行のことをどう言おう?
琳も行くなら正直に言うけれど、二人きりだとなんとなく後ろめたい。
泊まりがけでアルに勉強を教わるとかでいいかな?
…なんて、女の子みたいに親への言い訳を考えていると、アルが珍しく慌てた様子で小さく声を上げた。
「琳が待っているのを忘れていました!そろそろリビングに行きましょう」
「待たせてるの!? もう、早く行こう」
僕は自分でアルの膝から下りて、アルの腕を引っ張って立たせてあげた。
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