大人のチョコレート

しおりを挿む



 あ、僕がなにも言わなかったから不安になっちゃったのかな?

 俯いて一人で喜んでも、伝わるわけがないよね。


「すごく嬉しい。僕、勉強をがんばってちゃんと大学に入る!」


 それで、ここからの方が大学に通いやすいって理由にするんだ。

 ここの最寄り駅はターミナル駅に近くて、地元よりもいろんな場所に行きやすいから。

 親はアルを信用しているし、僕が独り暮らしするって言うより簡単に頷くと思う!

 こういう時、男同士っていうのは便利だよね。

 もしどっちかが女だったら、いい顔されなさそうだし。


「よかった…安心しました。では、正太郎の勉強は私が見て差し上げますね」

「うん!スパルタでお願いします」

「牧野じゃあるまいし、私にはそのようなことはできません。正太郎には特にです!」


 アルは転入してくる前にしたという漢字の勉強の話をしだした。

 ちなみにこれは五回目くらい。

 真夏の暑い日に小中学生用の漢字ドリルで、ひたすら書き取りをさせられたって話。

 漢字はまぁ…しかたないよね。

 書けるようになるには書きまくるのが一番だから。


「アルはもう“御厨”も書けるようになってるんだからすごいよ」

「当然です!私は正太郎の名前をマスターするために、必死にがんばったのですから」


 胸を張って誇らしげに言うアルが可愛くて、僕は腕を伸ばして頭を撫でてあげた。

 そのまま顔を捕えてキスをすると、いつもの笑顔が完全復活。

 嬉しくなってアルの胸に頬を寄せたら、優しく抱き締めてくれた。


「正太郎…愛しています」

「うん。僕もだよ」




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