大人のチョコレート

しおりを挿む



「そうですね。ですが、転職をされては私が困ります」

「ご飯なら、僕が作ってあげる!最近…母さんを手伝いながら練習してるんだ…」


 勢いに任せて言ってみたけれど、牧野さんはアルの秘書だった!

 ご飯を作ってくれるところばっかり見てたから、うっかりしちゃった。

 恥ずかしい…。

 それに、練習なんて言ってもまだまだがんばらないと…なのに。


「正太郎のご飯が毎日食べられるなんて、夢みたいです!…では、正太郎を私にください、とお願いに伺わなければなりませんね」

「そ、そんなの」


 そんな言い方だと、お嫁さんにくださいって挨拶するみたいじゃないか。

 僕は男だから、アルのお嫁さんにはなれないのに。


「いずれにしても、高校を卒業したら正太郎とここで一緒に暮らしたいので、ご挨拶には伺いますが」

「えっ!?」


 ご挨拶って?

 一緒に暮らすって!?


「どうかしましたか?」

「…ううん。びっくりしただけだよ」


 アルが僕とのことをそんな風に考えているなんて…。

 嬉しい!僕、アルと一緒にいられるようにがんばる。

 まずは勉強をがんばって大学もちゃんと決めよう。


「正太郎…」

「? …っん」


 決意を新たにしていると、不意に呼ばれて唇を塞がれた。

 持っていたマグカップはいつの間にかアルに奪われていて、僕は深くなっていくキスに素直に応えた。

 でも、なんだかいつものキスとは違う。

 少し不安そうなキス。


「……急にこんな話をしてしまって、申し訳ありません。正太郎は…どう思いますか?」




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