大人のチョコレート ■しおりを挿む
すぐに鞄を下ろしてコートを脱いで、ソファまで歩いて。
自分のコートをクローゼットに仕舞っているアルの背中を見ながら、ソファの隅っこに座る。
ふとテーブルを見ると、アルが僕にくれたチョコの少し小さいのがあった。
アルはいつもこうして、僕がいつでも食べられるように、部屋に小さなお菓子を用意してくれている。
でもお皿に乗っていることが多いのに、今日はどうして箱のままなんだろう?
僕はいつもと違うそれを特に気にせず、いつものようにアルを待ちながら口に入れた。
「う…にが…」
すぐに溶けた薄いチョコの向こうから、トロリとした苦いものが出てきた。
苦いけど、なんだか癖になる味だ。
もしかするとこれは、リキュールボンボンの類なのかもしれない。
いわゆる“大人のチョコレート”で、父さんが会社で貰ってきても子供は食べさせてもらえないやつ。
でも実は何回か食べたことがあって、僕はこんな少しのお酒では酔わないんだよね。
僕のコートまで仕舞ってくれているアルを見ながら、二つ、三つと食べ進める。
おいしい…この大人の味がたまんない。
「アル!」
「正太郎…?」
やっとクローゼットの扉を閉めたアルが来るまで待ちきれなくて、僕はその背中に飛び付いた。
アルの背中は広くて、あったかくて気持ちいい!
「早くキスして!」
「急にどうしたのですか?」
「いいから…して」
僕に向き直ったアルに改めて抱き付くと、アルは微笑んで僕を姫抱きにした。
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