大人のチョコレート ■しおりを挿む
うちのマンションを出た僕たちは、腹ごなしに駅までの道を歩いた。
約10分でも歩くと、お腹がいい感じに落ち着くんだなぁ。
身体も芯からポカポカするし、寒いうちはアルのマンションまで電車で行くのもいいかもしれない。
そりゃ牧野さんが迎えに来てくれるのが一番楽だけれど。
一度琳と二人で朝早くから行って驚かせてみようかな、なんて思いながら切符を買おうとした僕の手をアルが止めた。
「正太郎、待ってください。タクシーに乗りましょう」
「え? 高いからダメだよ」
「時間を買うと思えば安いものです。時間は普通、買えないのですから」
確かに、一回乗り換えるから時間がかかるかもしれない。
僕は滅多に電車に乗らないからわからないけど。
「ん…わかった」
せっかく駅まで歩いたのに、僕たちは結局タクシーでアルのマンションに向かった。
コンシェルジュの人に挨拶をしてからエレベーターを上がるともう2時で、牧野さんと琳は既に来ているみたいだった。
琳はケーキを牧野さんに渡せたのかな?
今ごろイチャイチャしてるのかな。
出掛けてった時の慌てっぷり、すごかったからなぁ。
牧野さんに恋をしてからの琳は、本当に可愛くなった。
「正太郎?」
アルと手を繋いで牧野さんの部屋の方角によそ見しながら歩いていると、アルが急に顔を覗き込んできた。
「ちょっと琳のことを考えてたんだ」
「そんなことを考えていないで、早く中へどうぞ」
「うん!」
未だに琳に嫉妬するアルに笑って、僕は部屋の中に入った。
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