大人のチョコレート ■しおりを挿む
そんなに嬉しそうにされたら、ムカムカしてた気持ちが萎んでしまうよ。
僕を放置したアルが悪いのに…。
「アル…」
「はい」
僕は手袋をはずしてアルのコートのポケットに手を入れた。
すると、アルはふわりと微笑ってポケットの中で手を繋いでくれた。
外じゃこれぐらいしかできない。
しかも、人がいない場所に限られる。
早く二人きりになって、アルにたくさん触れたいな。
「私もですよ」
「…?」
「早く正太郎を抱き締めたいです」
「うん…」
言わなくてもわかってくれてるんだ。
アルの手が温かくて、尖った気分が本当に落ち着いてしまった。
さっきの僕は子供っぽすぎたかも。
親とアルしかいなかったからっていうのもあるけど、もうちょっと大人にならないと。
それにあの態度は…後で突っ込まれたりしたら、アルはただの友達だなんて言い張りにくい。
はぁ…僕はダメダメだ。
「大丈夫ですよ。映画の時間が迫っているんです、と言ってきましたから」
エレベーターに乗ったら、アルが一瞬だけ僕を抱き締めてそう言った。
「映画を観るの?」
「いいえ、私たちが急ぐ理由に使っただけです。嘘も方便、ですよね?」
「もう。ありがとう…」
アルはいつも少し先を見て行動しているみたい。
同い年なのに僕とは違って大人だ。
そう言うとただの面倒くさがりだって言うけど、そうだとしてもかっこいい。
かっこよすぎて、ずるい。
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