大人のチョコレート

しおりを挿む



 そんなに嬉しそうにされたら、ムカムカしてた気持ちが萎んでしまうよ。

 僕を放置したアルが悪いのに…。


「アル…」

「はい」


 僕は手袋をはずしてアルのコートのポケットに手を入れた。

 すると、アルはふわりと微笑ってポケットの中で手を繋いでくれた。

 外じゃこれぐらいしかできない。

 しかも、人がいない場所に限られる。

 早く二人きりになって、アルにたくさん触れたいな。


「私もですよ」

「…?」

「早く正太郎を抱き締めたいです」

「うん…」


 言わなくてもわかってくれてるんだ。

 アルの手が温かくて、尖った気分が本当に落ち着いてしまった。

 さっきの僕は子供っぽすぎたかも。

 親とアルしかいなかったからっていうのもあるけど、もうちょっと大人にならないと。

 それにあの態度は…後で突っ込まれたりしたら、アルはただの友達だなんて言い張りにくい。

 はぁ…僕はダメダメだ。


「大丈夫ですよ。映画の時間が迫っているんです、と言ってきましたから」


 エレベーターに乗ったら、アルが一瞬だけ僕を抱き締めてそう言った。


「映画を観るの?」

「いいえ、私たちが急ぐ理由に使っただけです。嘘も方便、ですよね?」

「もう。ありがとう…」


 アルはいつも少し先を見て行動しているみたい。

 同い年なのに僕とは違って大人だ。

 そう言うとただの面倒くさがりだって言うけど、そうだとしてもかっこいい。

 かっこよすぎて、ずるい。




- 14/36 -

[≪prev | next≫]



 ←Series Top





「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -