大人のチョコレート ■しおりを挿む
「じゃあ僕、夜はアルと食べてくるから」
「気を付けてな」
しかたないから、僕は父さんだけに声を掛けて先に靴を履いた。
それでも母さんとの話を止めようとしないアルに、僕は若干苛立ちながらその広い背中を叩いた。
「アル、行こうよ」
「わかりました。…それでは、私はこれで失礼致します。楽しくて美味しいお食事会を、ありがとうございました」
丁寧に深々と頭を下げる金髪碧眼のアメリカ人。
さっきの手土産といい、すごく異様な光景だ。
「いいえ。またいつでも遊びに来てね」
「アルくんが大人になったら一緒に酒を呑みたいな」
「まぁ、あと三年もあるわよ」
「そんなのすぐだ!なぁアルくん」
「はい。是非お義父様に日本酒の味を教わりたいです」
「任せろ!」
「じゃあ美味しいおつまみも用意しなきゃ」
また話し出したよ。
しかも今度は父さんまで参加してるし!
アルもアルだよ、僕をほったらかしにしてニコニコ笑って!
「もう、行くよ!」
僕はそんなアルの袖を強く引っ張ってから、さっさと一人で家を出た。
すると漸くアルも焦ったのか、慌てて家を出てきた。
「どうしたのですか? そんなに慌てて…」
「アルがいつまでも母さんや父さんと話してるのが悪いんだ!」
「ふふっ…」
「なにがおかしいんだよっ」
「正太郎が妬いてくれているので、嬉しくなりました」
僕は怒っているのに。
こんなつまらないヤキモチで喜ぶなんてずるい!
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