大人のチョコレート

しおりを挿む



「じゃあ僕、夜はアルと食べてくるから」

「気を付けてな」


 しかたないから、僕は父さんだけに声を掛けて先に靴を履いた。

 それでも母さんとの話を止めようとしないアルに、僕は若干苛立ちながらその広い背中を叩いた。


「アル、行こうよ」

「わかりました。…それでは、私はこれで失礼致します。楽しくて美味しいお食事会を、ありがとうございました」


 丁寧に深々と頭を下げる金髪碧眼のアメリカ人。

 さっきの手土産といい、すごく異様な光景だ。


「いいえ。またいつでも遊びに来てね」

「アルくんが大人になったら一緒に酒を呑みたいな」

「まぁ、あと三年もあるわよ」

「そんなのすぐだ!なぁアルくん」

「はい。是非お義父様に日本酒の味を教わりたいです」

「任せろ!」

「じゃあ美味しいおつまみも用意しなきゃ」


 また話し出したよ。

 しかも今度は父さんまで参加してるし!

 アルもアルだよ、僕をほったらかしにしてニコニコ笑って!


「もう、行くよ!」


 僕はそんなアルの袖を強く引っ張ってから、さっさと一人で家を出た。

 すると漸くアルも焦ったのか、慌てて家を出てきた。


「どうしたのですか? そんなに慌てて…」

「アルがいつまでも母さんや父さんと話してるのが悪いんだ!」

「ふふっ…」

「なにがおかしいんだよっ」

「正太郎が妬いてくれているので、嬉しくなりました」


 僕は怒っているのに。

 こんなつまらないヤキモチで喜ぶなんてずるい!




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