大人のチョコレート ■しおりを挿む
ここは思い切って話題を変えてみるべき?
でも母さんもアルも、なんだか声を掛け辛い雰囲気。
父さんはキョトンと母さんたちを見ているだけだからアテにならないし。
「うふふ、安心したわ。じゃあデザートにしましょうか」
「………?」
悩んでいる僕を余所に、唐突に沈黙を破った母さんがアルから視線を外してにこやかに席を立った。
さっきまでの間はなんだったんだろう。
もう話は終わったってこと?
アルを見上げると、いつもの笑顔で僕を見ていた。
「アル…」
「大丈夫ですよ」
テーブルの陰で手を握られる。
その手の温もりが気持ちよかったから、僕はよくわからないけれど頷いた。
アルの言う通り、その後はごく普通の世間話をしながら四人でチョコムースを食べただけ。
甘さ控えめだったし、ムースだからすごく食べやすくて美味しかった。
「正太郎、お腹は苦しくありませんか?」
紅茶を飲み終えたアルがカップを置いた。
それを心待ちにしていた僕は、すかさず立ち上がって元気をアピール。
「平気!そろそろ行こうよ。僕、出掛ける準備してくるから玄関にいて!」
ちょっと苦しいけど、たぶんアルのマンションに着く頃には普通になってるはず。
なによりも僕が早くアルと二人っきりになりたいんだ。
僕は張り切って部屋に戻ると、準備をして素早く玄関に向かった。
なのに母さんがまたアルを捕まえて話し込んでいる。
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