大人のチョコレート ■しおりを挿む
瞠目しているアルに頷いてあげると、お弁当をあげた時みたいにその目が潤んできた。
「嬉しいです!あぁ、この喜びをどう表現すればいいのでしょう!」
「大袈裟だよ」
「大袈裟などではありません!正太郎の手作りなのですよ?」
アルは包みをぎゅっと抱き締めてから、まるで壊れ物を扱うかのように丁寧にラッピングを解いた。
リボンも包装紙も、綺麗にたたんで脇に置いてある。
取っておく気なのかな…。
その目的は違うだろうけど、なんだか母さんみたいだ。
「すごく美味しそうです。もったいないので、食べずにいつまでも眺めていたいです」
「もう。また作るから早く食べて」
「…わかりました」
アルの細くて長い指がビスコッティを口元に運ぶ。
形のいい唇を潜り抜けたそれを、白い前歯がかじった。
少し堅めのそれは、アルに咀嚼されてザクザクと音を立てる。
ドキドキドキドキ。
「ど、どうかな」
アルは不味いなんて言わないと思うけど、それでも緊張する。
「すごく美味しいです!そのようなチョコレートなど、足元にも及びません」
「よかった」
台詞の後半と、未だに続く賞賛の言葉は聞き流す。
僕が作ったお菓子がアルの口に合ったってだけで充分だから。
アルは母さんがご飯に呼びに来るまで、その一つをゆっくりゆっくり食べた。
しかも残りは持って帰ると言って、またラッピングしだす始末。
なんだか嫌な予感がしたから、月曜日までに食べきらないともう作ってあげないって言っておいた。
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