君の名前を書きたくて

しおりを挿む


 生徒となった私と校内で鉢合わせし、さらに会話が弾む場面など想定していないはずだ。

 あってもすれ違い様に挨拶程度。

 私ですら、もし校長と話すことがあっても電話越し、もしくは学校の制服を着ていない時に理事長を交えて、だと思っている。


「今の話し方ですと、杞憂だとは思いますが…私としては少々不安が残るのです。
 先生は顔に出やすいタイプのようですから、今から慣れていただきませんと」


 しかし、陽平の杞憂に言い返せるだけの度胸はないのだろう。

 彼の額の汗が増えていく。

 あぁ、校長が気の毒でならない。

 視線を陽平へと移すと、眼鏡の奥の瞳が若干生き生きしているように見える。

 この鬼畜め。陽平も私と似たような想定をしているくせに。

 まぁ確かに、陽平の指摘にこれだけ動揺されては不安にもなってくるが。

 だが、あまりにも気の毒すぎて、私は助け船を出すことにした。


「校長、どうか無理をなさらないでください」

「…!そ、そう、だね。あまり校内で話すこともないで…だろうが、何かあったら事務室から室長を通して連絡してきて…くだ、さい」

「ふふ、私もそのつもりです。直接お話するのは、理事長やこの牧野もいる場で、でしょうしね」


 ハンカチで忙しなく汗を拭い始めた校長は、私の想定が自分のそれと近いことに気付いて表情を少し和らげた。


「では書類は後日、編入の日に担任の先生にお預けします。本日はありがとうございました。
 これから図書室を見せていただいてから勝手に帰りますので、ここで失礼致します」

「は…、はい、気を付けて…お帰り、なさい」


 これ以上話すことも特にないので、彼の平穏のためにも私は早々に話を切り上げて校長室を出た。



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