大人のチョコレート ■しおりを挿む
「正太郎…、もう少しこちらに」
「うん…早くアルのマンションに行きたい」
「ふふ。正太郎も私と同じことを思っていたのですね」
「だって、二人っきりなのに甘えられないんだもん」
あと20分ぐらいでお昼ご飯なのに、すごく長く感じる。
「では今のうちに、これを受け取っていただけますか?」
「え?」
アルは懐から小さな包みを取り出して、僕の手のひらに乗せた。
視線で促されて開けてみると、中には丸い四粒のチョコが入っていた。
「私が気に入っているショコラティエに作らせました」
「すごい…」
よくわかんないけどすごい。
どうせ僕にはチョコの味の違いなんてわかんないけど。
アルがその中の一粒をつまんで、僕の口に入れてくれた。
…うん、やっぱりわかんない。
でも気分的に美味しい。
「おいひぃ」
「正太郎の口には大きすぎましたか?」
「んーん、溶かひてるらけ」
もったいなくて、普通のチョコみたいに噛めないよ!
それを見てアルが笑いだしたから、僕もお菓子をあげることにした。
少し小さくなった丸いチョコを口の右側に寄せて、なんとか喋れるようにする。
「これ、僕からだよ」
包みを差し出すと、予想通りアルの笑いがピタッと止まった。
なかなか上手くできたつもりでも、素人のラッピングだからすぐにわかったんだろう。
「正太郎…まさかこれは」
「うん、僕が作ってみたんだ。食べてみて」
←Series Top
|