大人のチョコレート

しおりを挿む



「これでいいかな…」

「目を閉じてください」


 えー!

 どうしよう、こんなところでダメだよ!

 本当に母さんにバレちゃう!

 僕は目を普通に閉じてみせたつもりなんだけど、本当は薄目を開けているから目蓋がプルプルしている。

 だってもしアルが迫ってきたら、ダメだよって言わないと。

 身体を触られたら…気持ちよくなったら拒否を貫く自信がないから。


「あぁ…とても感動しました」


 でもアルは襲いかかってくるどころか、目を閉じて恍惚の表情を浮かべている。

 襲われたかったわけじゃないけれど、予想外の反応に少しガッカリしてしまった。


「どうして感動?」

「私は今、一緒に暮らさないと見られない、普段の正太郎の寝顔を目にしたのです。感動せずにはいられません」

「でも、僕は何度もアルと一緒に眠ったことがあるよ?」

「違うのです。正太郎の日常というのが、大きなポイントなのです」

「そうなんだ…」


 わかるようなわからないような…。

 アルにとっては、この部屋がすでに特別で感動すべき場所らしい。

 狭くてごちゃごちゃした部屋なのに。

 このベッドだって、かなり昔から使っててボロだし。

 それを教えたら、正太郎の成長をずっと見守ってきたベッドに出会えるなんて感動です、って言われた。

 ベッドでこうなら、小さい頃のアルバムなんか見せたら泣いてしまいそうだ…今度探しておこうかな。

 僕はベッドから下りると、アルにくっつきたいのを我慢して隣に座った。




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