大人のチョコレート ■しおりを挿む
◆ ◆ ◆
気持ちよく寝ていた僕は、突然身体を揺すられて意識を軽く浮上させた。
「ん…」
なにか夢を見ていたはずなのに、内容はすっと記憶から落ちてなくなる。
もう…誰だよ、いい夢だったのに。
「正太郎、アルが来たで」
「……え? え!?」
アル、と聞いて一気に脳が覚醒する。
僕は飛び起きて、髪型や服装を整える間もなく玄関へ走った。
下の人、家にいたらごめんなさい!
「アル!」
「正太郎、おはようございます」
アルは随分大きな花束を抱えている。
僕が抱えたら前が見えなくなるぐらいの、大きな花束!
「これを正太郎に」
「え…僕に?」
「本当は明日、手渡したかったのですが…」
てことは、バレンタインのプレゼント?
「ほな正太郎、また夜な!」
「うん、気を付けてねーっ」
慌ただしく僕たちの横を走って、靴を引っ掛けて出ていった琳の背中に声をかける。
でもたぶん聞こえてないな。
ていうか、琳の声に考え事を中断させられちゃった。
「アル、これは…?」
抱えた花束の意味を訊いたら、アルが内緒話をするように耳元に顔を寄せてきた。
「正太郎への愛を表現するように、と手配させました」
「…もう!」
どうしてアルは、そんな恥ずかしいことを堂々とするかな。
でもいろんな赤やいろんなピンクがバランス良く纏められていて、すごく綺麗だ。
←Series Top
|