大人のチョコレート ■しおりを挿む
実は今日、アルがお昼ご飯を食べに家に来るんだ。
チョコムースを作るからアルにも渡そうかな、って母さんが言い出したのが発端。
どうせなら冷たいのを美味しい紅茶と。
それならお昼ご飯をご馳走して、ムースをデザートにしよう。
という感じで、いつの間にか“バレンタイン会食”の開催が決定していた。
勝手に決定しちゃったから断られないか心配だったけど、アルはとても楽しみですって言いながら例のずるい笑顔を見せてくれた。
ちなみに母さんは牧野さんも呼びたいって言ってたんだけど、琳と牧野さんのバレンタインデートを邪魔したくないから勝手に断っちゃった。
「母さん、手伝わせて」
僕はキッチンで忙しなく料理をする母さんの隣に立った。
一回アルにお弁当を作ってから、たまに手伝うようになったんだ。
最近は包丁にも少しだけ慣れてきた。
またアルにお弁当を作りたいからがんばってるんだけど、ちょっとずつ上手くなっていくのが楽しい。
僕はエビの殻を剥きながら、母さんの手元を観察する。
すると、調味料を巧みな目分量で合わせていた母さんが口を開いた。
「正太郎はアルくんが好きなのね」
「えっ!?」
「あのお菓子も、アルくんにあげるんでしょう?」
い、いきなりどうして!?
バクバクと心臓がうるさく喚き出した。
中途半端に殻が残ったエビが、ポロリとボウルの中に転げ落ちる。
まさかバレてるっ?
母さんはわりとのんびりした性格で、気付くことなんてないはずなのに…。
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