君の名前を書きたくて ■しおりを挿む
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その日の授業がすべて終わり、帰るという理事長に挨拶を済ませた私たちは、校長と編入後の対応について意見を交わした。
基本的に特別視させないために、私のことは教師にも知らせない。
つまり私のことを知っているのは理事長と校長、そして事務室長の最低限に留めること。
あと、理事長室は一般生徒や教師が立ち入らないフロアにあるので、何かがあれば自由に使っていいこと。
理事会にはなるべく出席することなどを取り決めた。
「偽名を使って編入することになるのですが、ファーストネームはそのままでファミリーネームを母方から拝借したいと思っています」
「承知致しました。編入の日付は9月10日となっています。始業時間までに職員室へおいでください」
9月10日…と復唱して頭に入れた時、斜め後ろに待機していた陽平が動く気配を感じた。
「校長先生、一点よろしいですか?」
淡々とした雰囲気の中に、長年付き合ってきたからこそわかる何かを感じる。
次に出る言葉は、校長が困る内容かもしれない。
「ええ、気付いたことはいつでも何でも仰ってください。改善に尽力致します」
「では遠慮なく。…この時点から、校長先生はアルブレヒト様に対して、一般生徒に対する態度と同じ態度で接していただけませんか?」
「は……!?」
じわり、と少し生え際が後退している校長の額に汗が浮かんだのを、私は見逃さなかった。
この校長はきっと、あまり一般生徒とどうこうする立場にないのだろう。
中には校長自ら教鞭を執る学校もあるだろうが、この校長は普段はいない理事長の代理を務めることもあると言っていたし、教育現場よりも経営に多く携わっているタイプなのだろう。
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