君の名前を書きたくて ■しおりを挿む
◆ ◆ ◆
学校に着いた私たちを出迎えてくれたのは、校長と理事長だった。
「あぁ、少し貴方のお婆様…早苗さんの面影がありますね」
軽く挨拶と自己紹介を交わした後そう言った理事長は、まだまだ元気そうなのに一切の権限を私に譲って、形だけの理事長になると言い出した。
「私は9月にはこの学校に生徒として編入するのです。理事長の権限があるなどおかしいでしょう」
「いえ、ゆくゆくは貴方のものとなるのですから、雇われ理事長を使うことに慣れる意味も含めて、こうしたいと決めたのです。 学生時代から会社経営の方には携わっておいでだったと聞いていますが、学校経営はまた違った難しさがあります。 私がまだ元気で理事長をやっていられる間にお教えしたいんですよ」
「確かに、そうですね…。わかりました。未熟者ですが、よろしくご指導ください」
指導は仰ぐが、なるべく権力など使わずに高校生活を送りたい。
後にちゃっかり使うことがあるのだが、この時の私は決して特別扱いはしないように、とお願いした。
いきなり跡継ぎの話などで重い空気になったが、私たちは気を取り直してさっそく校内探索をすることにした。
案内してくれるという申し出を目立ちたくないという理由で丁重にお断りし、代わりに地図をもらって陽平と二人で繰り出した。
授業の真っ最中である今は、時折教室から教師の声がするだけで静まり返っている。
「綺麗で、いい学校ですね」
「そうだな。話には聞いていたが、本当に土足ではないから驚いてしまった」
「日本にも土足のままの学校はありますけどね」
二人分のスリッパの音が、ペタペタと誰もいない廊下に響く。
授業風景も見たいが、それはさすがに無理がある。
というわけで、唯一見咎められない体育の授業を見学するためにグラウンド方面に向かうことにした。
こんな暑い日に炎天下で運動なんて、どうかしているんじゃないか?
と思ったら、なんでも夏は体育館の隣にある室内プールで授業をしているらしい。
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