君の名前を書きたくて

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◆ ◆ ◆




「牧野、もう少し蒸れないものは用意できなかったのか?」

「それが限界でございます。アルブレヒト様がご所望されたんですから、少しは我慢なさってください」


 日本の夏は蒸し暑い。

 忌々しい“梅雨”という季節はどうにかできないのだろうか。

 とにかく蒸し暑い。

 聞けば“梅雨”を乗り越えても蒸し暑さは続くらしい。

 “暑さ寒さも彼岸まで”という言葉を覚えさせられたが、なんと“彼岸”まであと二ヶ月以上もあるらしい。

 私はウィッグの風通しを良くしようと軽く摘んでそれを浮かせたが、陽平にみっともないと止められてしまった。

 現在、私たちはスーツで例の学校に向かっている。

 陽平は生粋の日本人だし学校に編入しないので、いつも通りの格好で涼しい顔をしている。

 それに対して私は、ブロンドは目立つからと黒髪のウィッグを装着し、碧の瞳を隠すために黒のカラーコンタクトを入れた上に伊達眼鏡を掛けて、非常に苦しい思いをしている。

 直接髪を染めるか、いっそ開き直って素のままで行こうかとも思ったが、秋から編入する私が校内を闊歩するところを見られるわけにはいかないし、髪を傷つけたくはないし…。

 そんなわけで、私はウィッグで頭を蒸れ蒸れさせながら歩いている。

 遺伝的には心配いらないだろうが、あまりに蒸れるものだから髪が抜け落ちてハゲてしまいやしないかと心配になる。


「目立ちたくない、とかなり手前で車を降りられたのはアルブレヒト様の判断ですから、恨み言はなしですよ」


 今まさに、ぼやこうと思っていたことだ。

 先手を打たれてしまった。

 あぁ、冷たいシャワーを頭から浴びてさっぱりしたい…。


「ほらあちらをご覧ください、もう到着しますよ。
 校舎内は冷房が効いていますから、あと少しの辛抱です」

「着いたらまずは休憩だからな」


 そう言った私に苦笑した陽平は、やはり汗をかいていなかった。



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