閑話*ある晴れた平日 街中編

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◇駅ナカの攻防 Side琳


 あんな場面でにあんな重要なことを知らされるとは思わへんかった。

 俺、ゴールデンウィークに正太郎と一緒にアメリカに連れていかれるんやって。

 陽平が家族に恋人は男や、ってカミングアウトするんやて…。

 いきなりあの女に惚気だした陽平を怒ろうと思ってたのに、どうでもよくなったわ。


「まずはT大に受からないとね」

「そうやな…」


 俺が男なんは変わらんわけやし、陽平の家族にちょっとでもええ印象を与えられるようにせなな。

 よっしゃ!さっそく今日からがんばるで!


「ほな俺、こっちやから」


 俺はホームに上がる階段の前で、陽平に手を振った。


「うん、じゃあ行こうか」

「は? なんでやねん」


 陽平が乗る電車はホームが違うやろ。


「マンションまで送るよ」

「や、俺男やし、まだちょっと明るいし」

「関係ない」


 あっさり否定されてしもた。

 でも今日の俺には言い分があるんや。


「陽平は帰ったらまだ仕事あるやん。時間がもったいないから、まっすぐ帰り」


 まともな言い分やろ?

 女の子やないんやから、現地解散でそれぞれ帰ったらええんや。

 どうや、俺の勝ちやろ!


「ダメだよ。デートをしたら恋人を送るのは当然だから」

「ほんなら俺が陽平を送るわ」

「うるさいよ。ここでキスされたいの?」

「なっ…」


 なんやねん!

 お前は俺の恋人やんか!

 俺が陽平を送ったかて、おかしいことないやんか!


「っと、アルから電話だ。失礼」


 ほらな、アルがはよご飯作れ!って電話して来よったんやわ。

 俺のせいで仕事サボらせるとか、嫌やからな!

 たまには俺に勝たせろ!


「アルも正太郎を送るかどうかで揉めてたみたい」

「え…?」

「俺を迎えに寄越すって約束で送らせてもらえるらしいから、俺はアルを正太郎のマンションまで迎えに行くよ」


 ってことはなに?

 俺は陽平に負けたってこと?


「さ、行くよ」

「…うん」


 結局俺は、マンションまできっちり送ってもらった。

 俺が陽平に勝てる日は、いつ来るんやろ。




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