閑話*ある晴れた平日 街中編 ■しおりを挿む
◇惚気てみた Side陽平
この女が、ここまで図々しい人だとは思わなかった。
ほら、琳が俺の苛立ちを感じ取って俯いているじゃないか。
「…好きな人ですか?」
「はい!いるんですか?」
「いますよ」
キッパリと答えたら、琳がビクリと肩を震わせた。
それを見ていると自然に顔が綻ぶ。
…やっぱり琳は俺の癒しだね。
「私には、とても可愛い恋人がいます」
余りにも琳の反応が可愛いものだから、言い直してみた。
「本当…ですか?」
「ええ、同い年の方なんです。 正直者で思っていることがすぐ顔に出るところ、反応が可愛いところ、こんな私を好きでいてくれるところ。 好きな所を挙げたら、キリがないですね」
「…………………」
「この間なんか、手作りのクッキーをくれたんです。私のために初めてお菓子作りをしたと聞いて、ますます愛しくなりましたよ」
「そうですか…」
俺は俯く琳の旋毛を見ながら、一息に言い切った。
惚気なんて愚かなことだと思っていたけど、琳の反応が面白いから悪くはないかも。
琳がその場にいないと意味がないけどね。
「それと、5月にアメリカへ連れていって、家族に紹介するつもりです」
「嘘やんっ!?……あっ…えっと…」
今まで沈黙していた琳が、真っ赤な顔を上げて叫んだ。
あぁ、琳にはこのことをまだ言ってなかったんだった。
「ご、5月は…あ、遊びに誘おう思てて…陽平を、あの」
しどろもどろな言い繕いがたまらない。
「ごめんね、また誘ってくれるかな」
「ええんや!そんなん…」
赤くなったり青くなったり忙しいな。
でも、琳のおかげで気分は最高だ。
「あの、私…仕事が残っているので失礼致します」
「わかりました。お気を付けて」
これで彼女は今後、仕事の話しかしなくなるだろう。
俺は晴れやかな笑顔で、その後ろ姿を見送った。
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