閑話*ある晴れた平日 街中編 ■しおりを挿む
◇陽平の魅力 Side琳
陽平が行列に行ってしもたから、俺はしかたなく参考書を広げた。
ここは注文受けてから作るから、ちょっと時間掛かるんや。
「ねぇ」
「なっ!?」
いきなり横から呼び掛けられて、数学の世界に行きかけてた俺は軽く飛び上がった。
「キミ、牧野さんの知り合い?」
さっきの女や。
陽平がさっき相席を断った女が、俺の隣に来よった。
近くで見たらえらい化粧濃いな。
「そうですけど」
「牧野さんってすごく綺麗よね? 仕事もできるし、クールだし大人だし性格もいいし」
「はあ…」
「背も高いし、全部が完璧!しかも19歳なのに、既に米国で大学を出たって。私、あの人以上にいい男はいないと思うんだけど」
なにがしたいんやこいつは。
化粧臭いしイラッとしてきた。
陽平が性格いいって?
あんなドS捕まえて、よう言うわ。
エロいし変態やしすぐ意地悪言うし、不器用なとこもあるし…。
なんも知らんくせに、陽平の外側見て狙ってるんか。
俺は陽平の変態なとこもエロいとこも、他にも全部好きなんやからな!
「彼、彼女とかいないよね? キミはなにか知らない?」
ここに恋人がいますけどなにか?
とか言えたら爽快やねんけど、俺が女でもそれは言えんわ。
なんか…傲慢に聞こえるやん。
「さぁ、本人に訊いたらどうですか」
「見たところキミは受験生だよね? 勉強があるって言って帰ってくれない? あたし、牧野さんと二人で話したいの」
二人で喋りたいから帰れって!?
なんやねんこいつ!
さすがの俺でもこれは黙ってられへん。
「あのなぁ…」
「申し訳ありません。彼はこれから私と食事をする予定ですので、お断り致します」
俺の文句を、上から降ってきた冷ややかな声が遮った。
「陽平…?」
見上げた先にある陽平の笑顔は、今までにない冷たさを奥に秘めていた。
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