閑話*ある晴れた平日 街中編

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◇受験生の予定 Side琳


 あの後結局、おにぎりは食べへんかった。

 空腹通り越してなんも感じんようになったから、めんどいしそのまま突っ走ったんや。

 授業が終わってみんなが自習するからって残る中、俺は聡と一緒に早々と予備校を出てきた。

 お腹の音を笑い倒したお詫びに、なんか奢ってくれるらしい。

 それやったらええもん食べよかって駅に向かってたら、聡が一点を見つめて立ち止まった。


「なにあれ、モデル?」

「なんや、また好みの女でも見付けたんか」

「違うって…あいつ男だし。キレイだけど」


 聡が男に興味持つやなんて珍しいな、と思いながら、俺は聡の視線の先にある駅前のベンチに目をやった。

 ほんなら陽平がいてたもんやから、めちゃくちゃびっくりした。


「ごめん聡!知り合いやわ」

「へぇ…。じゃ、今度付き合えよ」

「わかった!」


 俺は聡と別れて、陽平のところに駆け寄った。

 もしかして俺に会いに来てくれたんかな、って思ったりして。

 せやから訊いてみたら、たまたま通りかかっただけらしい!

 それでも会えただけで嬉しいから、ええんやけどな。

 俺はココアを飲んだ後、冷たいおにぎりを食べながら隣の陽平をチラチラ見てた。

 陽平に会えて、嬉しくなった途端にお腹すくやて…。

 俺って子供みたいやな。


「それだけで足りるの?」


 陽平が俺をじっと見ながら呟いた。


「なにがや?」

「朝からなにも食べてないんでしょ? よかったら軽いものでも食べに行こう」

「え…」


 陽平は、この後の予定ええんかな?

 仕事の途中とかやないんやろか。

 俺は嬉しいんやけど!


「受験生は予定が詰まっているかな?」

「ない!俺はなんもないねん」


 俺は慌てて答えた。

 今日の勉強なんか、夜やればええんや!


「…試験は来月でしょ?」

「普段がんばってるから、ええんや!」


 ほんまやで!

 昨日かて一昨日かて、ずーっと勉強してたんやで!


「そう。なら行こうか」

「うん!」


 よかった。

 もうちょっと陽平と一緒にいてられる。

 俺はおにぎりのアルミホイルを丸めて、脇のゴミ箱に投げた。




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