君の名前を書きたくて

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◆ ◆ ◆



 去る6月、私は16歳で大学を卒業した。

 当主の期待に応えるためにあらゆる勉学に励み、その傍らで遊びも適当にやるという器用さを見せ付けた。

 実際、当主が求める年齢より一年早く大学を首席で卒業してやったし、言語だって五ヶ国語は会得した。

 日本語の漢字だけは苦手だが、日常会話は充分すぎるほどにできる。

 それが突然、やはり成人するまでは表に出すわけにはいかないと言い出した。

 在学中だって、たまに経営に関わらせてきたくせに、未成年は舐められるという理由だけで。

 ただくだらない日々を過ごしてきたろくでなしの大人より、年齢が足らないというだけで私が舐められる。

 まったく、実力主義が聞いて呆れる。

 そんな時お祖母様が、日本で跡を継ぐ血縁者がいないと困っていた従兄から、一つのハイスクールを買ったという話をしてきた。

 突拍子もないことを思いついてはよく家族を困らせる彼女は、私にそこで青春してらっしゃい、と話した。

 青春時代なら一応私にもあった。友人とダーツやビリヤードを競ったり、好意を寄せてくる女と付き合ったことだってある。

 そう返した私に彼女は、当時家族の説得に苦労してアメリカ留学を果たし、お祖父様と出会って盛大な恋愛の末に結婚した話を始めた。

 ちなみにその話をするのは十数回目で、ストーリーはほぼすべて私の頭に入っている。

 それでも本当に幸せそうに話すから、私はいつも通り真剣にその話に耳を傾けた。


「アルブレヒト、貴方はまだ自分から誰かに恋をしたことがないでしょう?」


 まだお祖父様は健在だというのに、少し大袈裟に話を締めくくった彼女は、私の手を取ってそう呟いた。

 確かにその通りだが、私はそれで困ったことがない。



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