閑話*ある晴れた平日 高校編

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◇早弁用の弁当 Sideアル


 お昼まであと一時間という、男子高校生にとって一番苦しい時間。

 私は鞄から小さめの包みを取り出して、正太郎の席へ向かった。


「お、珍しい。アルが早弁すんの?」


 それにいち早く反応したのは拓真だ。


「はい。持久走は体力を消耗しますから」

「だよな。俺も早弁しよ」


 弁当を広げだした拓真は、お昼はなにを食べるのだろう。

 そう思いつつ、私も包みを広げた。

 中身は陽平の得意料理の、ライ麦パンでローストビーフとレタスを挟んだシンプルなサンドイッチだ。


「正太郎、一緒にこれをいただきましょう」

「僕も…いいの?」

「はい。午前中に持久走がある日は、ランチとは別に軽食を用意しますから」

「えっ!これ、早弁用のお弁当!?」

「アルってすげーよな、用意がいい」


 私はまだいいが、正太郎はこの小さな体であれだけの距離を走るのだ。

 栄養補給が必要なのは当たり前のことだ。

 包みを開けて、一口サイズのサンドイッチを正太郎の口に入れてやる。

 正太郎が一生懸命食べる姿は、何度見ても飽きないな。


「ん、ローフトビーフら」

「マジで? アル、一個くれ!」

「拓真、静かにしなさい。周りに知れたら正太郎の分がなくなってしまいます」

「あー、ごめんごめん」


 拓真に一つ分けて、私も一緒にサンドイッチを食べ始めた。

 陽平が作るローストビーフは、やはり絶品だな。


「ごちそうさまでした!」

「美味しかったですか?」

「すごく美味しかった。これ飲む?」


 満足気に頷いた正太郎がくれたイチゴ牛乳は、正太郎の唇のように甘かった。

 あと一時間で本物を味わえると思うと、次の授業はとても長く退屈に感じた。




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