閑話*ある晴れた平日 高校編

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◇ずるい奴 Side正太郎


 僕はアルに、余計なことを言ってしまったようだ。

 まったく…僕の裸を見てどうこうなるのはアルだけだよ。

 どうこうしていいのも、アルだけだし…。

 お昼休みにでも説得しようかな。

 …いや、それよりも今を乗り切らないと。

 激しく暴れる心臓と、激しく乱れる呼吸。

 もう、苦しいなんてもんじゃない。

 あとグラウンド何周だっけ…。

 片隅で球技にはしゃいでいた女子たちは、余裕の表情でトップを独走するイケメンに大騒ぎしている。

 できることなら、僕もそれに混ざりたい。

 だってそのイケメン、僕のだもん。


「正太郎、大丈夫ですか?」


 僕は無言で頷く。


「辛いのですね。今すぐその苦しみから救って差し上げたい…」


 何回目だったっけ、アルに後ろから追い付かれるの。

 アルは余裕でも僕は死にかけなんだから、話し掛けないでほしい。

 僕は早く行けって気持ちを込めて、前方を指差した。

 少し躊躇した後に、アルは僕を置いて行ってくれた。

 どうしてあんなに、息もほとんど乱さずに走れるんだろう。

 アルは本当にずるい奴だ!

 残り三周、僕は悔しさをぶつけるようにグラウンドを踏みつけた。


「正太郎っ!」


 うわ…。

 フラフラで最後の直線に入ったら、アルが突然ゴールに飛び出してきた。

 先生が怒って、トラックの内側に入るようにとアルを押し遣る。

 僕はその様子を見ながら、なんとかゴールした。


「はい、お疲れさん」


 先生がタイムを記録する傍ら、落ち着かない様子のアルに近付く。


「早く私の元へ!」

「アル…疲れたぁ」


 伸ばされたアルの腕にしがみついて、その場に座り込む。

 すると、大きなタオルが肩に掛けられた。


「授業が終わったら、正太郎の好きなイチゴ牛乳を買いに行きましょう」

「うん!」


 ヘトヘトの身体に甘いイチゴ牛乳は格別だろうな。

 それを聞いただけで、持久走の疲れが吹き飛んでしまうのを感じる僕だった。




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