帰国した恋人との年始の過ごし方 ■しおりを挿む
なんとなくバックミラーを見たら、運転手さんと目が合ってしまった。
「恥ずかしいよ…」
「大丈夫です。彼らは客のプライバシーなど、気に留めませんから」
気に留めなくても、恥ずかしいものは恥ずかしいんだけど…。
いくら見つめても、アルは折れてくれそうにない。
暴れても無駄みたいだ。
僕は諦めて、琳がくれたクッキーを鞄から出して一口かじった。
サクサクしてて、すごく美味しい!
「アルも食べて!」
手に持っていたクッキーをアルの口に捩じ込んだ。
「…あ、美味しいですね」
「うん、大騒ぎして作っただけのことはあったね」
「あれは騒ぎすぎですよ。鼓膜がおかしくなりそうでした」
アルが苦虫を噛み潰したような顔をした。
まぁ気持ちはわかるけど。
琳のうるささについて二人で話しながらクッキーを食べていると、あっという間に神社に着いてしまった。
思った通り人はまばらで、ゆったり参拝できそうだ。
「正太郎、人があまりいませんから正しい作法で参拝をしましょう」
「アルは知ってるの?」
「はい。昔、お祖母様に教えられました」
すごい…。異国のお作法を覚えるなんて、僕には無理だ。
というか、日本人なのに参拝のお作法もよく知らない。
僕は、アルに倣って動いた。
鳥居を潜るところからすでに始まっているらしい。
ゆっくり歩いて、僕たちは手に水を掛ける場所にやって来た。
「ここは、手水舎という場所です。まず右手で柄杓を持って左手を清めます」
「はい」
思いっきり外国人なアルに僕が参拝のお作法を教わっている図は、かなり滑稽なんだろうな。
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