帰国した恋人との年始の過ごし方 ■しおりを挿む
◇Side アル
公園で食べたお弁当は、やはりどの一流シェフの料理よりも美味しかった。
正太郎が私のために作ってくれた、値段の付けられない食事。
この可愛らしい手が握ってくれたおにぎりなど、口にした瞬間に涙が出そうになった。
これが、私の贈り物へのお返しだなんて。
正太郎は頻りに私の贈り物と比べて、たいしたものじゃないと言っていた。
お金さえ出せば手に入るものと、値段の付けられない食事を比べるなんてどうかしている!
たいしたものじゃないのは、私の贈り物の方だ。
はにかんだ正太郎は可愛いし、お弁当は美味しいし…二人きりだし。
私は改めて正太郎の大切さと、正太郎がくれるかけがえのないものを実感した。
「ごちそうさまでした。美味しすぎて涙が出そうになりました」
「大袈裟だよ。でも、口に合ってよかった」
事実をそのまま言ったのに、正太郎は首を横に振った。
以前から思っていることだが、正太郎は謙虚すぎるきらいがある。
私は、空のお弁当箱を片付ける正太郎の手を取った。
「アル…?」
不思議そうに私を見上げる大きな黒い瞳は、私だけを映している。
「我が儘を言います。…また、お弁当を作ってくださいますか?」
正太郎の瞳が大きく揺れた。
「うん!ありがとう!」
よかった、正しかったようだ。
きっといくら褒めても、正太郎は素直に受け入れられないのだろう。
少々我が儘が過ぎるかと思って躊躇したが、言ってみるものだな。
嬉しそうに荷物を整理する正太郎が、可愛くてたまらない。
早く密室で二人きりになりたい。
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