帰国した恋人との年始の過ごし方 ■しおりを挿む
アルは、ちょうど運ばれてきた安いコーヒーを優雅に飲んだ。
そのカップが綺麗な真っ白だから、見た感じとても絵になるけれど、僕の変な形のおにぎりじゃ無理があるな。
せめて何日か余裕があって、おにぎりの練習ができてればよかったな…。
俵型にも、まんまるにも、三角にもならなかったし。
中の具はきっと片寄ってるし。
でも、アルに喜んでもらえた。
作ってよかった…後悔はいらなかった。
あとは、僕の味付けがアルの口に合うかどうか。
…緊張する。
「では、そろそろ参りましょう」
アルは、僕が持ってきた鞄を二つとも取って立ち上がった。
にっこりと笑ったアルは、やっぱりずるいぐらいかっこいい。
思わず見惚れてしまったけど、アルがお会計でカードを出したから慌てて取り上げた。
「喫茶店は僕が払うって約束でしょ!」
「ですが…」
「いいからっ」
アルはまだ17歳のくせに、プラチナカードを持っている。
まだカードを作れる条件を満たしていないから、アルの父さんが持ってるカードの家族カードのうちの一枚を家から貰ってきたらしい。
いいんだか悪いんだかわかんないけど、アルはそこらへんの大人よりしっかりしているから、カードを持っててもいいんだろう。
「これで、お願いします!」
「はい、お預かりします」
僕は強引にアルにカードを返して、自分の財布から千円札をレジの人に手渡した。
どうせホテル代とか、ご飯とか出してもらうことになるのに!
こういう細かいところぐらい、僕が払いたいよ。
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