帰国した恋人との年始の過ごし方 ■しおりを挿む
「お弁当、作ってきた…んだ」
「え…」
アルの高そうなコートとか、鞄とか腕時計を見ていたら、すごい勢いで後悔が押し寄せてきた。
やっぱり、アルにはこんなチープなお弁当は合わないかもしれない。
「あ、あの…アルには合わない、中身で…。 でも、アルに貰ったプレゼントの、お返しがしたくて、僕…」
「合わないとはどういう意味ですか」
「だ、だって、おにぎりとか…卵焼きとか。だから…」
「正太郎が、この手でおにぎりを握ってくださったのですか?」
「うん…」
アルの手に力がこもった。
手を握られていたから、ちょっと痛い。
涙が出そうで伏せていた視線を上げると、アルは祈るように目を閉じていた。
「あぁ…私はこんなにも幸せでいいのでしょうか。今、この地球上に生息する、どんな命あるものよりも幸せです!」
「ちょっと、アル…」
なにこの人、ちょっと泣いてる…!
僕は、慌ててポケットから出したハンカチをアルに押し付けた。
「すみません。感激のあまり、涙が…」
琳が言ってたことが、現実になってしまった。
でも食べて泣くなんてことは、さすがにないだろう。
「お弁当の中身は、本当にたいしたものじゃないんだ…」
「正太郎が作ってくれたのですよ? どんな一流シェフが、どんないい食材を使って調理をしても敵いません!」
「そ、そんなっ」
あんな焦げた卵焼きや、いびつなおにぎりを見もせずに言わないでほしい!
「どこか、落ち着ける公園でいただきましょうね」
「うん…」
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