帰国した恋人との年始の過ごし方 ■しおりを挿む
恥ずかしくて思わず胸元の鞄で顔を隠したけれど、一瞬だけアルの最高の笑顔を見てしまった。
当然だけれど、足音が静かにこっちに近付いてくる!
カツカツという足音に、心臓の音がリンクする。
なにこれ!心臓がおかしくなりそう!
「正太郎…やっと会えました」
「あ、あの…」
アルと会うの、こんなに恥ずかしかったっけ?
アルがアメリカに行くまでは、普通に会ってたよね?
なんでこんなに照れるんだろう!
「隠さないで。可愛い顔を、私によく見せてください」
「う…」
頭を撫でられて、僕はしかたなく顔を上げた。
「やはり、写真よりも本物が一番可愛らしいですね」
茹で蛸みたいに真っ赤になって視線を逸らしてる僕の、なにが可愛いんだか。
「アル…目立ってる、から」
店員さんもお客さんも、みんなこっち…というかアルを見ている。
そのアルにほっぺを撫でられている僕は、たまらなくいたたまれない。
「あぁ、すみません。正太郎しか見えていませんでした」
そんなこと、真面目な顔で言わないでほしい。
アルは僕の向かいの椅子に座ってコーヒーをオーダーをすると、未だに鞄を抱き締める僕の右手を握ってきた。
うるさい心臓が、さらにドキリと跳ねる。
「その大切そうな物は、なんですか?」
「こ、れは…」
どうしよう、恥ずかしいんだけど。
なかったことにしたいぐらいだ。
でも無駄にしたら、琳や姉ちゃんや、食べ物に申し訳ない。
言うだけなら、いいかな。
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