傍にいない恋人との年末の過ごし方 ■しおりを挿む
そんな微妙な空気の中、車が屋敷の玄関前で静かに停車した。
先に降りてドアを開けると、スイッチが入ったのか“正太郎大好きアルくん”から“アルブレヒト・クリフォード”へと戻ってくれた。
俺の心配が杞憂に終わってよかった…さすが、俺の主だ。
「お帰りなさいませ、アルブレヒト様」
重厚な扉を開けて中に入ると、使用人たちが整列して出迎えた。
荷物はすでに送ってあるので、俺の仕事はここで終わりだ。
屋敷の奥へ向かうアルを見送った後、近くの使用人に帰ることを告げた。
送迎車を出すと言われたけれど丁重にお断りして、俺は徒歩で実家へと向かった。
空港で琳に渡したアレ…中身を見たら、琳は騒ぐだろうな。
きっと耳まで真っ赤になって、俺のお願いを聞くと言ったことを後悔する。
それでも琳は、俺の言うことを聞いて、俺からは見えないのに従うんだ。
なんて可愛いんだろう、あいつは。
最初は、俺の命令を守って二週間も抜かないだろう琳に、ただプレゼントするだけのつもりだった。
それを使うなら一人でしてもいいよ、なんて冗談を言ってやって。
反応目的のからかい八割、実際に使ってほしい気持ちが二割。
でもあの時、琳は俺にお返しがしたいと言ったから、電話しながらさせるつもり。
「あ…お兄ちゃん!」
琳をどうしてやろうかと考えていたら、気付かないうちに実家の敷地に入っていたようだ。
懐かしい声に視線を向けると、妹の実花が走ってくるところだった。
「実花、また可愛くなったね」
勢いをつけて体当たりしてきた実花を抱き上げてやった。
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