傍にいない恋人との年末の過ごし方 ■しおりを挿む
家族でクリスマスと年越しするからって帰るだけやん?
こんなん見せられたら、俺の小さい寂しさなんか吹っ飛ぶわ。
陽平がアルの肩を叩いたら、力なく頷いたアルが歩き出した。
長身のイケメン外人が質のいい身なりで悲しみの中立ち去る様は、さながらハリウッド俳優の名演やな。
何回も振り返るアルと、それを見つめる正太郎。
俺は正太郎を置いて帰るわけにいかへんから、とりあえず近付いてみた。
「正太郎」
「あ…ごめんね、アルが大袈裟で」
正太郎も寂しそうやけど、アルの寂しがり方のインパクトがでかすぎて冷静になってるみたいや。
「えらい目立ってたで。アルは、いてるだけでも目立つのに」
「そうだよね。僕も寂しかったのに、恥ずかしさが勝ってしまって…」
正太郎は、アルの背中が見えへんようになったのを確認してから苦笑いした。
あんまり愛されすぎるのも困りもんやな。
「ほな、これから軽く何か食べてから展望デッキ行かへん?」
俺は疲れの見える正太郎に、そない提案した。
「いいね!帰りにどこか寄ろうよ」
「ええよ。正太郎と久しぶりにデートやな」
いっぺんに元気になった正太郎に、もしかしたらアルはわざとあないに大袈裟にしたんかも、と思えてきた。
正太郎が寂しいって泣かんで済むように…とか。
うん、あり得るわ。
アルはすごいな、そこまで計算できるんやなぁ。
「琳、あそこに案内があるみたいだよ」
「わかった」
俺は、空港にはしゃぐ正太郎を微笑ましく思いながら歩き出した。
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