僕の所有者宣言

しおりを挿む


 再び触れた唇の隙間から舌がねじ込まれた。

 僕の舌よりかなり長いそれは、僕の歯列とか上顎とか舐めてくるし、舌に絡まってくるし、やたら忙しなく動いた。

 時には舌を強く吸われ、また思考が鈍っていく。

 目は自然に閉じるし、擬音にしたくないくらいなんだかエッチな音が耳に響くし、さっきの鼻に抜けた声がまた勝手にたくさん漏れるし。


 …あ、ヤバい、気持ちいい…かも。


 昼休みに入ってから何分ぐらい経ったかわからない。

 名残を惜しむように唇が離れ、仕上げとばかりに最後に唇の表面を舐められた。

 僕の息は50m走をした直後みたいに上がっていて、簡単には治まらない。

 僕は、はぁはぁと荒い呼吸を繰り返しながらアルを見た。


「…そんな顔、私以外には見せないでください」


 初めての怒気を孕んだ口調にびっくりする間もなく、突然の浮遊感が僕を襲う。

 姫抱きされていることに気付いて戸惑うけれど、もう指先にすら力が入らなくてされるがまま。

 グッと後頭部を引き寄せられ、僕の顔がアルの胸元に押し付けられる。

 何て種類の香水だか知らないけれど、いい匂いが密着によって強くなった。

 だらりと垂れ下がったままだった腕をなんとか自分のお腹の上まで移動させると、僕を姫抱きにしたアルが教室を出て歩きだした。


「ど、どこ行く、の」


 廊下を歩くアルに問う。

 思ったよりも小さな声だったけど、本人には充分聞こえているだろう。


「とにかく二人になれる場所へ。正太郎は心配しなくていいんですよ」


 あ、口調が元の優しいのに戻った。


「うん…」


 見上げた顔が何故かあまりにかっこよく見えて直視していられず、僕は自らアルの制服の胸元を掴んで顔を埋めた。

 きっと僕は耳まで真っ赤だ。

 男がかっこよく見えて照れるなんて、なんか恋する乙女みたいだな…。



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